

シズルワードを読み解く
「シズル(sizzle)」とは、「ステーキなどが美味しそうにジュウジュウいっている」状態を表現する英語の動詞です。ひと昔前には、広告やマーケティングの専門家でもなければ、一生、耳にさえしない言葉でした。近年では、「シズル感」などの和製造語を通じて、食べ物に限らず商品が買い手の購買意欲をそそるさまを表す言葉として使われる例が広がり、以前よりは知られた言葉になっているようです。今回は、その「シズル」本来の意味に立ち帰って、「美味しさを表現するための日本語の今」がよくわかる一冊をご紹介します。
人・市場・社会と響きあう「美味しさ」の表現
『シズルワードの現在:「おいしいを感じる言葉」調査報告書』編著・B・M・FT(B・M・FT出版部、2015年)
同書は、おいしさを表す「シズルワード」を「味覚系」「食感系」「情報系」に3分類し、言葉が受け手にどう感じられるかを長期に渡って調査した研究成果の詳細なレポートです。
例えば、「歯ごたえのある、あっさりした天然の一品」と「もっちりとして、濃厚なうまみのある贅沢な一品」とでは、どちらがよりおいしそうに感じますか?これらはいずれも、多くの人々がおいしそうと感じる言葉を並べて作った架空のキャッチコピーです。ただし、前者は人気にかげりが見えつつある言葉、後者は人気がのぼり調子の言葉を並べたものです。私たちがどんな言葉においしそうと感じるのか、その変化を通じて、私たちの好みのありようが時とともに移り変わっている様子がわかります。
同書では、支持されるシズルワードの経年変化の他、世代・性別によって支持されるシズルワードの違い、シズルワード同士の関係の遠さ近さ、特定のシズルワードと関わりの強い食品やブランドなどが、データの裏付けをもって紹介されています。人気のシズルワードの多くにコンビニエンス・ストアとの強い連想が見いだされることからは、私たちの食生活の中でコンビニがどれほど大きな存在となっているかを強く感じさせられます。
おいしさ(あるいはまずさ)を表現する言葉には、「風味豊か」「シャキシャキ」など人間の五感のとらえ方に関わる言葉や、「産地直送」など消費者の知識に関わる言葉だけでなく、ある文脈の中でのみ美味しさを表すユニークな表現もあり、その全容は計り知れません。同書で「シズルワード」として調査されているのは、そうした言葉の一部にすぎないかもしれませんが、おいしさを伝えることの難しさと面白さ、そして、そこで追求される誠実さの一端を、読者に垣間見せてくれる一冊です。
他にもこんな記事がよまれています!
-
Interview
2017.07.06
食を通して見る、社会のあり方と人間の営み(後編)
フードジャーナリスト マイケル・ブース
-
Book
2021.06.14
英語を通して「食」と「異文化」を読み解く
-
Interview
2019.04.26
家業から事業へ。現場を知らないマネージャーが挑んだ農家改革
阿部梨園
佐川 友彦 -
Column
2020.11.11
アクション・バイアス ~変革型パティシエの探求~
立命館大学食マネジメント学部
金井 壽宏 -
Interview
2018.10.23
ダイナミックな多様性に溢れる、食ビジネスの可能性とその未来
ル・コルドン・ブルー
シャルル・コアントロ -
Interview
2021.08.26
シェフの味を食卓に。ロイヤルデリが提案するフローズンミール
ロイヤルホールディングス株式会社
リン・フォンション/倉持 敏一