2017.04.12

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  • 立命館大学 教授

    天野 耕二(あまの こうじ)

    立命館大学教授。専門は環境システム分析。環境問題と社会・経済の関わりを総合的に評価する手法や枠組みについて様々な視点から研究を進めている。好きな食べ物はペペロンチーノ・スパゲティ。

環境にも健康にもやさしい食を探す旅

世界最大の食料輸入国と言われている日本の食システム。食料供給の約60%(熱量ベース)を海外から輸入していることから、長距離輸送によって地球環境に相当の負荷を与えていることが想像されます。食料の輸送過程において排出される二酸化炭素などの温室効果ガスに着目して、現代の食システムが及ぼす環境負荷を計算する試みが最近進められています。

スパゲティは二酸化炭素排出量が親子丼の2倍?

大学生協食堂における人気メニューを対象として、食料の生産・加工過程および輸送過程における二酸化炭素排出量を推計してみると、ミートソース・スパゲティは親子丼の2倍程度の排出量を示します。スパゲティの原料であるヨーロッパ産小麦やオリーブオイルの輸入による長距離輸送と、食品加工度の高まりによる多頻度配送が主な要因と思われます。

また、食というサービスは「栄養」のサービスと考えることもできます。ふつうの一食分では親子丼のほうがミートソース・スパゲティよりも熱量(カロリー)・タンパク質ともに少し多いため、カロリー当たりやタンパク質当たりの二酸化炭素排出量の差はもう少し大きくなります。食を比べるときには、食べる量そのものだけではなく、食が提供しているサービス(機能)も重要になってきます。

親子丼については、主たる食材が白米・鶏肉・卵という「自給率の優等生」のように見えますが、鶏肉と卵については飼料(えさ)が国産か海外産かという点に注意が必要です。鶏肉の自給率は60~70%、卵の自給率は100%近いのですが、家畜の食べている飼料の多くが海外産であることから、親子丼についても飼料の輸入による長距離輸送を無視することはできません。

食べる地域と季節をめぐる悩ましいジレンマ

大根や白菜は冬、トマトは夏が旬とされている野菜です。旬でない時期にもこれらの野菜はいまの日本ではどこでも手に入りますが、温室栽培に伴う光熱動力や肥料等の投入による環境への負荷は小さくありません。トマトについては、夏秋の露地栽培に比べて冬春の温室栽培では3倍近い二酸化炭素排出量になります。

地元産の食材を地元で消費する「地産地消」、旬の食材を旬の時期に消費する「旬産旬消」、どちらも環境にやさしい食べ方として注目されています。それでは、日本で旬ではない農産物を日本と季節が反対の場所(南半球のオセアニア地域など)で露地栽培して長距離輸送する場合と、日本国内で温室栽培する場合では、どちらが環境に負荷をかけているでしょうか?

それ以外にも、青果物については、調理方法による栄養面でのサービス水準の違いにも注意が必要です。ビタミンC摂取量あたりの二酸化炭素排出量を計算してみると、多くの品目で炒め調理と比較して、ゆで調理のときの排出量が大きくなります。これは、ゆで調理の方が調理時間が長いので環境負荷が高く、かつビタミンC成分のゆで水への溶出分があるためです。

消費者である私たちの“食と環境”に関する認識が「食」を守る

食材・食品の生産、輸出入、自給率、調理、そして環境問題は密接に関わり合っています。生きていくために欠かせない「食」を持続的に支えていくために、消費者である私たちの“食と環境”に関する認識が重要になってきます。地場でとれたものを食べること、旬の食材を食べること、環境負荷の小さい調理で栄養がとれるメニューなど、地球環境と私たちの健康を良好に保つことにつながる道筋は果てしなく続いています。環境にも健康にもやさしい食を探る旅はまだ始まったばかりです。