英語を通して「食」と「異文化」を読み解く
日本の「食」を英語で説明するには、(1)相手の国・地域の「食」を知ること、(2)相手の日本の「食」に対する理解度を知ること、(3)「食」の専門知識を自分のことばで言い換えること、(4)自分の「食」の経験と照らし合わせること、そして (5)自分が使える英語の範囲内で、わかりやすく論理的に「食」を語ること、が大切です。
食マネジメント学部では、1回生から2回生春学期の英語教育に、専門科目との連携を図ったディスカッションとプレゼンテーション(SWOT分析、フードツアーなど)を取り入れています。2回生秋学期からは、英語を媒介言語とする専門外国語科目が提供されています。
そのうちのGastronomic Sciences Ⅰでは、台湾の輔仁大学とテレビ会議システムを使った遠隔共同授業を行っています。その中で学生は、台湾人学生が持っている日本食にまつわるステレオタイプや誤解を解き、日本の食文化を正しく伝えなければなりません。ネットの情報や本に書いてある英単語をそのまま抜き出して伝えても相手には伝わらない。例えば、「出汁」や「納豆」の説明を求められたとき、辞書に書いてあるようなstockやfermented soybeansとだけ言っても、日本の「食」は理解してもらえないでしょう。「食」を専門に学ぶ一つの意義は、自分の食文化を熟知し,相手の食文化への理解を示し、自分の経験に照らし合わせて「食」への想いを伝えることにあるのです。
上記の遠隔授業を開始するに当たって、台湾の輔仁大学の先生には,日本食に関するお互いの共通理解として、以下の二冊を授業開始前に目を通すように勧めています。
Ishige, N. (2011). The history and culture of Japanese food. Routledge.
Hosking, R. (2015). A dictionary of Japanese food. Tutle Publishing.
上の本は、日本の食文化史についての本であり、日本の食の歴史と文化を英語で包括的に知ることができます。下の本は、英語で書かれたコンパクトにまとまった日本食用語の英英辞書であり、食に関する用語を手軽に英語で調べるのに適しています。
また、「食」を外国の人に説明するには「言語・異文化コミュニケーション」が不可欠です。そのため、学生たちは、ポール・グライス(1975)の会話における「協調の原理」や,エドワード・ホール(1976)の「低コンテクスト・高コンテクスト文化」についても学びます。ここでいうコンテクストとは、コミュニケーションの際に、話し手と聞き手が従う社会的・文化的条件のことです。低コンテクスト文化では、意味の伝達の際,ことばの役割が非常に大きい。一方、高テクスト文化では,意味の伝達の際、ことばそのものよりも、その場の人間関係や雰囲気が重要視されます。
Meyer, E. (2014). The culture map: Decoding how people think, lead, and get things done across cultures. PublicAffairs.(『異文化理解力—相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養』著・エリン・メイヤー,監修・田岡恵, 翻訳・樋口武志(英治出版、2015年))
この本では、「低コンテクスト・高コンテクスト文化」をホールのような二分法ではなく、低から高までの連続したコンテクストの軸上に国を位置付けています。最も左端の低コンテクスト文化圏にあるのがアメリカ・カナダ・オーストラリアで、最も右端の高テクスト文化圏にあるのが日本・韓国・中国・インドネシア、ほぼ真ん中に位置するのがスペイン・イタリアなどです。
ここで一つの問題が生じます。それは、日本人が外国の人たちと英語でコミュニケーションをとるとき、相手国が「低コンテクスト文化」であったときにも、日本の「高コンテクスト文化」を持ち込んでもいいのか、あるいは,どちらかに合わせるべきなのか、ということです。日本人だからといって、英語を使うときも、ことば少な目でその場の雰囲気を重視する日本の「高コンテクスト文化」にもとづき英語を使っていいのだろうか。外国の人に、日本の文化で使われる「行間を読む(read between the lines)」、「空気を読む(read the atmosphere)」、そして「腹芸」によるコミュニケーションスタイルを理解してもらえるのだろうか。あるいは、台湾では言語コミュニケーションはどのように行われているのだろうか。日本と同じなのか、違うのか。
このような点について、授業の中で、日台の学生が、それぞれの異文化体験を踏まえ、日台それぞれの文化を背負った各自の英語を使い、グループ・ディスカッションを行い、考えをめぐらす。その際、日台の食文化の相違点が大事なポイントとなります。
ここで紹介した本を通じて、食マネジメント学部の学生に期待されていることは、日本のみならず外国の「食」を多角的に学び、日本国内にとどまらず、海外に向けて、英語をはじめとする外国語を媒介言語として、「食」を受信し、発信する異文化能力を備えた伝道師としての役割なのです。
食マネジメント学部 教授 大和田 和治
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