1食20円の社会貢献で挑む、食糧の世界的不均衡の解消

世界人口約70億人のうち、飢餓に苦しむ人が10億人、その一方で飽食による肥満・生活習慣病に苦しむ人が20億人いるといいます。飢餓と飽食という食の不均衡の解消を目指して、2007年から活動を行ってきたのがTABLE FOR TWO Internationalです。先進国でヘルシーな食事メニューを販売し、その売り上げの一部で開発途上国の学校で給食を提供するという画期的な活動をどのように始めたのか、NPO法人の代表を務める小暮真久さんに聞きました。

profile

  • 特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International 代表

    小暮 真久(こぐれ まさひさ)

    日本で大学を卒業後、渡豪。大学院にて人工心臓を研究する。大学院修了後帰国し、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社に入社し、コンサルタントして働く。2005年に松竹へ転職。社会起業家を志していたときに、マッキンゼー時代の先輩から世界の食の不均衡の話を聞き、TABLE FOR TWOの活動を始める。現在、アフリカ、アジアを中心に、アメリカやヨーロッパへ活動の幅を広げている。

日本の食卓と世界最貧国の給食を結ぶ1食20円の寄付

―― TABLE FOR TWOの活動内容を教えていただけますか?

TABLE FOR TWOのプログラムに参加いただいた企業の社員食堂で、カロリー控えめで栄養バランスの良いヘルシーな対象メニューを提供していただきます。この対象メニューには20円の寄付金が含まれていて、その20円でアフリカ、アジアにある学校で1食分の学校給食を提供します。


ルワンダの学校で提供される20円の給食「ポショ」 (c)TABLE FOR TWO

先進国の参加者と、地球の裏側にいる開発途上国の子どもたちの2つの食卓がつながるイメージです。この活動を通じて、先進国では低カロリーの食事を食べてメタボリックシンドロームの改善を目指し、アフリカやアジアでは温かい給食が届けられ、健康的な生活が送れるようになります。一方的に寄付をするだけではなく、参加者にもメリットがある仕組みです。

現在では、企業の社員食堂のほか、大学などの教育機関の学食で対象メニューが提供されるほか、レストラン、コンビニエンスストアなど約650の企業や団体に参画いただき、これまでで合計5,000万食以上もの給食をウガンダ、エチオピア、ケニア、タンザニア、ルワンダ、フィリピンの子どもたちに提供してきました。


エチオピア ハウゼン地区 給食を食べる子どもたち (c)TABLE FOR TWO

―― 対象メニューの内容について教えていただけますか?

対象メニューは、我々が制作したTABLE FOR TWOヘルシーメニューガイドラインに添ってつくっていただきます。ガイドラインの条件は3つ、(1)1食当たり730~800キロカロリーに抑えられていること、(2)栄養のバランスが取れていること、(3)野菜を多く含んでいることです。メニューの内容は各企業にゆだねています。ガイドラインに添っていれば、和食や中華、洋食なんでもあり。活動を始めてすぐは、量が少なく満足感が得られない、おいしくないといった理由で対象メニューが売れず、苦労されている企業があり、私からメニューについてアドバイスをすることもありました。しかし今は、各社で創意工夫をこらしてつくっていただき、ヘルシーかつおいしい多種多様なメニューを提供いただいています。


TFTのメニューを導入している社員食堂 (c)りそな銀行 東京本社

“社会に役立つことがしたい”その情熱で食の不均衡解消に挑む

―― “ヘルシーな1食で、栄養不足の子どもに1食の給食を届ける”というTABLE FOR TWOのアイデアは、どのように生まれたのでしょうか?

きっかけをつくったのは、創設メンバーの一人である近藤正晃ジェームスさんです。近藤さんは、2006年の世界経済フォーラム(ダボス会議)におけるヤング・グローバル・リーダーズに選出されました。そこで食に関するフォーラムが行われ、あるグループでは先進国の肥満・健康問題が議論され、それと同時に別のグループでは開発途上国の貧困・食糧問題が議論されていました。

世界的な食の不均衡を目の当たりにした近藤さんは、どちらか一方だけを解決しようとしても根本的な解決には至らない、開発途上国と先進国両方の食の改革が必要だと考え、TABLE FOR TWOの原型となるアイデアを練っていたのです。このアイデアを事業として実践してくれる人を探していたとき、私に声を掛けてくれました。当時、社会貢献活動に興味を持っており、話を聞いてすぐに「私がやります」と手を挙げました。

―― 翌2007年にはNPO法人TABLE FOR TWO Internationalを発足されました。小暮さんにとって、当時の仕事を辞めてまで始めたその熱意の源は何だったのでしょうか?

子どものころから誰かの役に立ちたいという思いがありました。自分が本当にやりたい仕事とは何かを深く考えるようになりました。そんな時に旧知の近藤さんから誘われたのです。食という誰にとっても身近なテーマなら、私でも力になれるかもしれないと思いました。

シンプルかつ手軽なスキームが一流企業を動かした

―― 2007年10月にはNPO法人の本部を構えて、活動を本格化。軌道に乗るまでの道筋を教えてください。

どんなアイデアも最初は机上の空論です。TABLE FOR TWOのプログラムを導入してもらうために企業に伺っても、実績ができるまでは名刺すら受け取ってもらえないこともありました。何より辛かったのは、前職の仲間や知人、訪問した企業の担当者から「それで、本業は何?」と聞かれたこと。私としては、TABLE FOR TWOこそ本業なのですが、社会貢献活動をしていても社会の一員としては認められないのだと痛感しました。

しかし2年後の2009年12月には100の企業・団体に参画いただくことができました。社会意識の変化とうまくリンクできたからでしょう。2008年の医療制度改革で特定健康診査(通称メタボ健診)がスタートし、国民全体の健康意識が高まりました。さらに企業のCSR活動が活発化し、企業活動における社会貢献の重要性が見直されていました。

そんななか、TABLE FOR TWOという、シンプルな仕組みの活動が現れたのです。1食20円で、自分のためにも貧困地域の子どもたちのためにも良いことができる。社会貢献活動をしたことのない方にも、分かりやすく参加しやすいのが強みだといえるでしょう。実際、TABLE FOR TWOをきっかけに社会貢献活動に興味を持ち、他の活動を始めた方もいます。


給食だけでなく、企業によるTFT寄付つきコラボ商品の販売も

さらに、広報に力を入れて、さまざまなメディアでTABLE FOR TWOの活動を紹介。次第に企業からの問い合わせが増えていきました。実は、大学の学食でTABLE FOR TWOの対象メニューを提供するようになったのは、「うちの大学でできますか?」という学生からの問い合わせがきっかけでした。

当時、私たちNPO法人の手が足りなかったため、スキームや交渉内容などを伝授して、学生たちに自主的に動いてもらいました。学長を待ち伏せして交渉してくれたり、大学のある京都市内のレストランに参画を呼び掛けて、TABLE FOR TWO参加店舗マップを独自に作成してくれたりと、学生たちの行動力と発想力、そして社会的意義のある活動をしたいという思いには驚かされました。

温かい給食が子どもたちの未来を変える

―― 今や約650の企業や団体が参画し合計5,000万食以上を提供するなど、活動が大規模です。小暮さんをはじめTABLE FOR TWO International事務局の方々は、どのような役割を担っているのでしょうか?

10人ほどの事務局メンバーで、TABLE FOR TWOにお寄せいただいた寄付金を各国の提携団体につないでいます。各提携団体に送られた寄付金は、現地の学校や地域住民と協働しながら学校給食を提供するための、給食費になる仕組みです。

支援先の国々は、世界で最貧国といわれているところばかり。家庭での食糧備蓄がまったくない“その日暮らし”の生活で、1日何も食べられない日があるほどです。そういった国の学校で、栄養バランスのとれた温かい給食を提供すると、給食を目当てで子どもが学校へ通うようになります。実際、タンザニアでのある学校では、TABLE FOR TWOの給食を提供する前は、授業の出席率が50%だったのが、給食を提供後90%に飛躍しました。


タンザニア ムボラ地区 給食を待つ子どもたち (c)TABLE FOR TWO

TABLE FOR TWOの活動は、子どもの栄養改善と初等教育の機会という2つの大きな効果があるのです。小学校に来ないと、字が読めず就ける仕事が限られて、貧困から抜け出せない負のスパイラルに陥ってしまいます。活動を始めて10年が経ち、現地では大人も子どももTABLE FOR TWOの名前を認知してくれています。さらに、卒業した子どもたちが中等教育に進んだり、将来の夢を語るようになったり。また、地域の方々からは、自分たちも食の生産に関わりたいという声があがっています。

―― 活動はますます広がりそうですね。

TABLE FOR TWOを世界にもっと広めていくために、アメリカとヨーロッパに支部を設立して活動を広げていく予定です。海外ではまた一から、リソースの構築からスタートすることになります。「健康」という一語をとっても国によって定義が異なっているだけに、日本で成功したパターンをそのまま持っていっても適合できないでしょう。文化の違いを理解し、現地の方々とうまく協力し合って進めなければなりません。

まだまだ困難にぶつかることもありそうですが、食べることは生きる根源ですから、食の重要性はこれからも高まる一方だと確信しています。生産面では、テクノロジーやサイエンスを用いて農作物の生産性を高める研究が活発で、アメリカではそれらに注力するベンチャー企業が多数立ち上がっています。


食の世界は広い。それに、社会から必要とされている。食に関するおもしろいイノベーションや、私たちのように食の社会的課題を解決するような団体が、日本からもたくさん出てきて欲しいと願っています。


ルワンダ マヤンゲ地区 子どもと一緒に給食を食べる小暮さん (c)TABLE FOR TWO

スマートな語り口のなかにも情熱をにじませる小暮さんからは、TABLE FOR TWOの活動を事業として持続させていくことの強い決意を感じました。また小暮さんは、「日本から世界に広がる社会貢献活動を絶やしたくない」とも言います。日本からアフリカ・アジアへ、そしてさらなる世界へと広がるTABLE FOR TWOに、私たちも出来ることから参加してみませんか。

関連リンク