2018.05.18

Interview

IoTを活用して新たな食文化の創造に挑む

目的に沿った飲食店を探す際、飲食店情報サイト「ぐるなび」を利用したことのある人はきっと少なくないでしょう。こうした「インターネットで飲食店を探す」という新しい外食の習慣を生み出したのが、株式会社ぐるなびです。同社がサイト運営に留まらず、多様な事業を展開していることは、あまり知られていません。最先端の情報・サービス事業を手がけながら、「食文化の振興」を最も大切にするという同社。その思いはどこにあるのか。プロモーション事業を統括する山本光子さんに伺いました。

profile

  • 株式会社ぐるなび 上席執行役員 営業本部プロモーション部門長

    山本 光子(やまもと てるこ)

    株式会社日本リクルートセンター、株式会社西武百貨店、株式会社NTTドコモ北海道、株式会社電通北海道で広報宣伝、販売促進やマーケティングを専門に力を発揮する。その力量を買われて2014年7月、株式会社ぐるなびに入社。現在、ぐるなびの国内外のプロモーション事業を展開する部門を統括。販売促進、戦略広報、マーケティングの他、食・観光領域のプロデュースや食文化の振興に幅広く関わっている。

「ぐるなび」が創り出した新しい外食スタイル

―― 飲食店情報サイト「ぐるなび」の登場によって、インターネットでお店の情報を探したり、確認してから飲食店に行くという今では当たり前の外食スタイルが浸透しました。外食のあり方を変えるほど、「ぐるなび」は革新的なシステム。その生みの親が、株式会社ぐるなびです。現在はどのような事業を手がけているのでしょうか?

当社が「ぐるなび」を開設したのは1996年、今から20年以上も前になります。インターネットユーザーからは、便利な検索サイトを運営・提供する会社として知られていますが、当社のビジネスの根幹は、飲食店などのお客様に対し、IoTを活用して経営や業務の支援、そして販売促進の支援を行うことです。現在、サイトに掲載する飲食店は50万店以上。当社は各お客様が抱えるさまざまな課題に対して解決策をアドバイスしたり、定期的にお店を訪問して店舗の運営などをきめ細かくサポートしています。


―― 「ぐるなび」以外にもさまざまな検索サイトを立ち上げておられますね。

「こんなことを知りたい」「こんな情報がほしいな」といったユーザーの声に応えることで新たな事業をつくり上げてきました。その一つが、外国人観光客向けの「ぐるなび外国語版」です。現在8言語に対応し、メニューの外国語表記はもちろん、食材や調味料、調理法を明記し、宗教や食習慣の異なる方々にも安心してお店を選んでいただくとともに、飲食店のお客様が外国人の集客を拡大するための仕組みをつくっています。また日本で唯一のミシュランガイド公式WEBサイト「クラブミシュラン」の共同運営も行っています。さらには、東京のおでかけ・イベント情報サイト「レッツエンジョイ東京」や、全国の観光地や体験スポットの情報を掲載した「ぐるたび」、外国人観光客向けの観光・交通ガイド「LIVE JAPAN PERFECT GUIDE TOKYO」など、現在では飲食店に留まらず、さまざまな情報サイトを提供しています。


「食」を切り口に、あらゆる分野に事業を拡大

―― 「食」はあらゆる産業分野と関わっています。ぐるなびの事業領域も多岐にわたっていますね。

「食」を突破口にすることで、本来なら交わることのないビジネスや業界の垣根を超えて、どんな事業分野にも挑戦できるのがおもしろいところです。サポートするお客様は、食品・飲料や飲食業界だけでなく、家電や流通など実に多様です。国や省庁、地方自治体との連携も少なくありません。現在、日本全国の17の自治体等と連携協定を交わし、地域活性化や食・観光ビジネス、そしてインバウンドの拡大なども支援しています。

―― 具体的にはどのような支援を行っていますか?

飲食店からコンビニエンスストアなどの大手流通、さらには生産者にまで及ぶ幅広いネットワークを持っていることが、当社の強みです。例えば、ある地域の特産品をPRするにあたって、コンビニエンスストアと連携して新商品を開発したり、レストランなどへの販路開拓を後押しするなど、多様な支援を行っています。実際自治体の依頼を受けて「地産地消」を推進するため、産地連動型のプロモーション活動を展開したり、食文化や観光振興を目的としてファーマーズマーケットやマルシェを開催することもあります。最近では、特産品の新たな販路を開拓するために海外でイベントプロモーションを行うなど、国を超えた事業も増えています。

一貫して取り組んでいるのは、日本の文化を守り育てること

―― 新たな事業にも果敢に挑み、事業拡大に積極的に取り組んでおられますが、企業経営にあたって大切にしていることはおありですか?

日本の食文化を守り育てる。それが当社の企業使命であり、どのような事業に取り組むとしても、この思いが揺らぐことはありません。2013年から開催している35歳以下の若手料理人を対象とした日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」も、そうした思いから生まれました。単なるイベントではなく、コンペティションを通じて高い志と確かな技術を持ち、未来の料理界を創っていくユニークで新しい価値観を持つ人材を発掘・応援することを目的に、厳正に審査しています。グランプリ受賞者と歴代ファイナリストが監修し、日本航空さんの国際線の機内食を開発するなど、最近では「RED U-35」が新たなビジネスを生み出すようにもなっています。新進気鋭の若手料理人がコンペティションを機に大きく成長していく姿を見るのは、私たちにとって大きな喜びです。


また、多くの著名な食通が推薦する「厳選グルメ」だけを集めたグルメキュレーションサイト「ippin」や、全国の3万5千人に及ぶ秘書会員を持つサイト「こちら秘書室」の現役秘書の方々が厳選した手土産を集めた「接待の手土産」というムック本をヒットさせるなど、食の価値を広く発信する取り組みにも力を注いでいます。こうしたことが可能なのも、「食」を切り口に多様な業界、多様な方々とつながり、ネットワークを築いてきたからこそだと思っています。

―― 志を同じくする社員の方々に求めるのは、どのようなことでしょうか?

まずは「日本の食文化を守り育てる」という思いを分かち合えることが大前提です。組織としては、これだけ幅広い事業を展開していますから、特定の知識やスキルを持っている人よりも多様な個性を歓迎しています。若い社員に常々言い聞かせているのは、「『食』に興味を持って積極的に現場に足を運び、リアルな情報を仕入れてきてほしい」ということ。「おいしいお店がある」と聞いたらまずは自分で食べに行き、味わってみてみる。そうした経験を積み重ねることで、多様な情報の中から必要な情報を選び取る力がついてきますから。

―― 近年、「食」の安全性に対する社会の目は厳しさを増しています。さまざまな側面から「食」と深く関わっているぐるなびにとっても避けては通れない課題でしょう。それについてはどのようにお考えですか?

生産者と手を携えて地域の食文化を育てたり、安全な食品を消費者のもとに届ける社会的責任を負っていることは強く自覚しています。全社員がその責任感と倫理観を持つ必要があると考えています。その一方で企業の発展のためには、マネジメントの視点を持って「食」をビジネスに結びつけていく力も必要です。ゼロから新しいもの生み出す力だけでなく、思いもよらない業界やモノ、人を結びつけて新しいビジネスを創出していくことも重要ですね。

さらに近年、当社のビジネスもますますグローバル化しています。現在、上海、香港、台湾、シンガポールの4都市に拠点を設置していますが、近くタイにも新たなブランチを開設する計画です。グローバルなフィールドで力を発揮できる人にも多くの活躍の場があります。ぜひ多様な人に仲間に加わっていただきたいですね。

「食」に留まらず、文化振興にも尽くすことで生活を、社会を豊かにしたい

―― 事業だけでなく、ぐるなびがさまざまな文化・芸術の振興に貢献していることは、意外と知られていません。どのような活動に取り組んでいるのか、またその狙いはどこにあるのかをお聞かせください。

ぐるなびの会長・創業者である滝久雄が代表を務める(公)日本交通文化協会では、芸術・文化振興の一環として、これまでに全国の駅や空港、学校などに520点を超えるパブリックアートを設置してきました。「人々が普段の生活の中で芸術に親しむことにより、社会のモラルが高まる」というのが滝会長の信念。日本の公共事業費の1%にあたる予算が芸術や文化の振興にあてられることを願い、「1%フォー・アート」を提唱しています。とりわけ日本は欧米に比べて芸術や文化を尊ぶ意識はまだ低い。それを変えていくための活動に取り組んでいます。


2018年2月には、滝が寄付を行うことで、母校である東京工業大学に国際交流施設が建設されると発表されました。ここを拠点に留学生と日本人学生が交流してグローバルなコミュニケーションを活発にし、多様性への理解を深めてほしいと願ってのことです。

―― 文化・芸術活動への取り組みは一見、事業とは関わりがないように思えますが、そこに共通点はあるのでしょうか?

滝会長がぐるなびの事業を開始した時から、「食は文化である」という視点は一貫して変わっていません。滝は常々「日本は確かに経済的には豊かな国になったかもしれない。しかしこれからは『文化』で世界に尊敬される国であるべきだ」と語っています。「食」もまた文化の一つです。それを守り育てることは、日本の文化を、さらには社会を豊かにすることに貢献すると私たちは信じています。


さまざまな分野にマルチに事業を拡大しているように見えるぐるなびですが、実はその背景には一貫して「日本の食文化を守り育てる」という強い思いがありました。その変わらぬ企業姿勢が、多くの顧客の厚い信頼を獲得し、また日本中のぐるなび利用者の支持を集める理由だと、山本さんの話を聞いてよくわかりました。ぐるなびがこれから次代に向けて、どのような新しい食の価値や文化を創出していくのか、期待が膨らみます。