食や地域と密接につながる、住まいづくりの仕事
分譲マンションを中心に、快適な住まいを提供する伊藤忠都市開発。今回は、平成30年6月に竣工した分譲マンション「クレヴィア金沢八景THE BAY」のモデルルームにお邪魔して、新しく生まれ変った「モット・キッチン」の開発エピソードと、マンション入居者と地域をつなぐ「うみまちLABO」という、2つのプロジェクトについてお話を伺いました。
profile
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伊藤忠都市開発株式会社
嶋田 耕平(しまだ こうへい)
2008年、中途にて伊藤忠都市開発株式会社入社。人事総務・法務審査等管理部門にて5年半勤めた後、2014年に現職に就く。
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伊藤忠都市開発株式会社
黒岩 武志(くろいわ たけし)
2008年、伊藤忠都市開発株式会社入社。分譲マンションの事業推進業務を3年、用地取得業務を3年間務めた後、2014年に現職に就く。
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伊藤忠都市開発株式会社
川越 光郎(かわごえ みつろう)
2011年、伊藤忠都市開発株式会社入社。分譲マンションの事業推進業務を2年半、分譲マンションの販売業務を1年間務めた後、2015年に現職に就く。
社内から有志を募り5人のメンバーで始動した、新生「モット・キッチン」の開発
―― 「モット・キッチン」のリニューアルにはどのような経緯があったのでしょうか?
黒岩さんもともと従来品として2009年に誕生した「モット・キッチン」があるのですが、その仕様や機能が今の暮らしにマッチしているのかという疑問があったんです。そこで、社内で有志を募って新しいキッチンを開発するチームをまずはつくりました。
川越さん当社の場合、商品開発をする専属の部署があるわけではないので、何かやりたいことがある場合は、今回の「モット・キッチン」のように、自主的に企画して有志を集めてプロジェクトをスタートさせます。普段はそれぞれに担当する物件があり、その事業推進と商品企画を主に任されているのですが、キッチンの見直しはどの物件にも共通するテーマ。より快適なキッチンがつくれたら、お客様の暮らしが豊かになり、物件の価値も上がると思い参加しました。
嶋田さん私も同様ですね。営業的な部署の私たち4人と、建築の部署から女性1名が加わった5人のチームで検討していきました。当初はメンバー全員で意見交換をしていきましたが、主に私たち4人が素人目線で意見を出して、設計ができる1名が現実的なカタチに落とし込んでいくような進め方になっていきましたね。そして何よりも、まずは現状の使い心地を聞きたかったので、入居者の方にご協力いただいて、アンケートを取りながら状況把握を始めていきました。
―― アンケートではどのような声が集まったのでしょうか?
川越さんアンケート結果に関しては、使い勝手、設備仕様に対する満足度などは、ある程度想定しうるものでした。なので、それだけをベースに改善していくのは……、あまりいい言い方ではないですが、面白くないよねという意見になったんです(笑)。本当に求められているキッチンなのか? 先を行く提案ができているのか? そんな視点を大切にしながらつくりたいと思っていたので。
黒岩さんもちろんアンケートの意見のなかには多くの気づきがあります。たとえば、シンクとガスコンロの間の作業スペースや、収納量についても、現状で満足している人と、足りなくてストレスになっている人と意見が割れたんです。不満の声だけであれば、改善点もシンプルです。しかし、満足している人もいる。これは、使う人に問題があるのか、キッチンに問題があるのか。そんな疑問を持ちながら、もう一歩踏み込んだ調査を進めていきました。それが行動観察(モニタリング)です。
―― 行動観察とは、どのような調査ですか?
黒岩さん一般的な訪問調査の場合、対象者のお宅に伺い、私たちが意見を求めたりコメントを聞いたりするのですが、行動観察というのは、ひたすら「観察」なんです。なので、私たちから特に質問などはせず、とりあえずいつも通り料理をしてもらいそれをビデオで撮影していきました。この調査によって、「私たちも気づいていないし、使っている本人も気づいていない」ような、何気なくしてしまうことや非効率な動きといった、無意識なところにある課題を見つけることができました。
嶋田さん今回の調査では2つの気づきがありました。1つは正しい収納の仕方を知らないことで効率の悪い行動が生まれているということ。最適な場所に物が入っていないことで、使いたい物が奥の方にあると、それを取り出すのに時間がかかったり、使う場所から離れたところにあるので、そこまで歩いて取りに行ったり、という行動が多く見られました。もう1つは、作業台にモノがあふれてしまっていること。狭いスペースで料理をしている様子からは、とても快適なキッチンには見えなかったですね。
黒岩さん最初からモノであふれている人は、収納に課題があると思っていましたが、撮影していて発見だったのは、時間とともに作業スペースがどんどんモノであふれてくるんです。後半になると、すごく小さなスペースで作業していて。これを何とかすることが今回の使命だなと思いました。あと収納のことは学校では教わりませんよね? 実は収納は、自分の実家の収納方法を無意識のうちにマネしている場合が多いんです。一方で、キッチンの開発側としては「ここにはコレをしまって欲しい」という意図があるので、その不一致を一致させていく必要があると気づきました。
―― なるほど。確かに料理をしているとキッチンの上にどんどんモノが増えていきます。でも、「そういうものだ」くらいにしか思っていませんでした。
川越さんそうなんですよね。行動観察にご協力いただいた方も、自分のキッチンで、いつも通りの動きをしてもらっているので、なんとなく料理をしながらスペースが狭くなってしまうことや、奥からモノを取り出すことも、不満に思うこともなく、いつも通りの感覚でされているようでした。アンケートでは見えてこない課題が、客観的に観察することを通して見つかったと思います。
見直したのは、収納と動線の整理。アフターフォローも、よりわかりやすく進化
―― 見つかった課題をもとにたどり着いたのが新コンセプト「いつでも、居心地のいいキッチン」なのですね。
黒岩さんコンセプトづくりは、一番時間をかけたところでしたね。アンケートで見えた課題も、行動観察によって得た気づきも反映したい。それは、全員が同じ不満じゃないのに、答えをひとつにするような感覚でした。最終的には、料理を毎日する人はもちろん、あまりキッチンを使わない人も含めて、「いつでも、居心地のいいキッチン」にしたいというシンプルな言葉に落ち着き、それからやっと具体的なハードの開発を進めていきました。
川越さんひとつの助けになったのは、行動観察の中で、本当にきれいにキッチンを使っている方がいたことでした。収納の仕方をよく知っていて、料理をするときの動線にも無駄がなくて。その方の使い方や動き方が、コンセプトをつくるうえでも、最終的にハード・ソフトを考えるうえでも参考になりました。
嶋田さんあとは、使い方を伝える工夫も足りなかったと思ったので、フォローサービスを再検討しました。具体的には、入居前にご希望の方に集まっていただいて、収納プロから使い方のレクチャーをするというもの。入居後もアフターフォローとして、個別に訪問して使い方を見せていただきながら、改善点が見つかれば、レクチャーするサービスです。細かいことを積み重ねて開発した新しい「モット・キッチン」は、ハードとソフトによって、これから使う人の満足度を高めていけたらと考えています。
入居者と地域をつなぐ橋渡し役として、街にある魅力を活用した企画を展開
―― モット・キッチンを採用しているクレヴィア金沢八景THE BAYでは、「うみまちLABO」というプロジェクトも始動しているそうですね。
黒岩さん「モット・キッチン」の開発は、部署全体のプロジェクトでしたが、「うみまちLABO」は、クレヴィア金沢八景 THE BAYの独自の企画です。なので、これは物件担当である私が推進しているプロジェクトになります。エリア周辺を散策しても気づくことなのですが、この街にはすでに多くの魅力があり、地域のコミュニティも成熟しています。新しくこのマンションに入居してくる人たちも、その魅力を知り、地域とうまく関わることができたら、暮らしへの満足度も上がり、結果的にマンションの付加価値にもつながるのではないか。そんな思いからスタートさせました。
―― いくつかの活動予定の企画には、食に関するものもありますね。
黒岩さん主な活動の中に“海育・知育(地育)プログラム”というものがあります。これは、エリアの象徴でもある海と街の歴史を学べるもので、マンションにある集会室兼キッチンスタジオを使って、地元の海産物を使った料理教室をプロの料理家を招いて開催する予定です。そのほか、テーブルマナーを学ぶ企画や、防災食を使った簡単料理の紹介など、親子で楽しく学べる講座も予定しています。あとは、プレイベントとして今度、地引網体験会をするんですよ(笑)。 獲れた海産物でバーベキューをしてお酒も飲みながら、参加された入居者同士で親睦を深めていただきたいですね。
―― 不動産のデベロッパーが、地域をつなぐ取り組みまで行うのは正直意外でした。
黒岩さん自力で地域のコミュニティに飛び込むことは、ハードルが高いことだと思うんです。私たちはマンションを開発する前から地域のことをリサーチしていますし、魅力にもふれてきています。その知見を活かして、入居者と地域の橋渡しのような役割を担うべきだと考えました。入居前からやがて暮らすことになる地域を知ることで愛着もわくと思いますし、そういった場をつくることも、私たちにできることだと思ったんです。
ソーシャルグッドな仕事は、民間企業でもできる
―― 社会貢献できる仕事をしたいと考えている方の多くは、公務員やNPOだけをイメージしがちですが、お話を伺っていると民間企業でも社会貢献できる取り組みが可能だと感じます。
川越さんそうですね。特に私たちのような不動産事業は、街を変える要素も強いですから、よりよい街にするために、地域貢献という考え方は欠かせないと思っています。社会貢献できる仕事をしたいと考えている方が行政やNPOだけに絞って将来を決めるのは、少しもったいない気もしますね。
黒岩さん民間企業として収益性を考えること。経済活動を通して社会に貢献すること。民間企業では、その両方ができますから。そして、すぐには利益を生み出せないけれど、社会貢献につながるような企画を会社で通すことは、やっていて面白いんです。
嶋田さん物件をいかに魅力的に味付けして、お客様に気に入っていただけるか。その工夫のしどころは無限にあるので、住まいと結びつかないんじゃないか……と思うような企画も案外できたりすると思います。何でもできることを楽しいと感じられる人は、活躍できると思いますね。
川越さん確かに、そうですね。今何かと話題ですがIoTを住まいにどう取り入れるか検討する部署を設けたり、個人的には大手家電メーカーと打ち合わせなんかもしています。単にマンションというものを提供するだけでなく、テクノロジーと日常生活を連動させて、どのように便利で快適な住まいを提供していくか。最近はそのことばかり考えています。
黒岩さん私は、今は当たり前のようになっている「LDK」という考え方を一度取っ払って、間取りに縛られない暮らし方を提案できないものかと思案しています。たとえば、大きなワンルームをゆるやかに仕切って、人の気配を感じながら暮らすような。今はまだぼんやりしていますが、そんな壮大なことを頭の片隅に置きながら、地引網を引っ張ったりしています(笑)。
嶋田さん私たちは住まいプロフェッショナルですが、テクノロジーやその他のことはわからない。幸い外部も含めて周囲にはいろいろな分野のプロフェッショナルの方が多くいるので、遠慮しないで自分の「これがやりたい!」という思いを伝えつつ、責任者としての気概を持ってカタチにしていくことが、私たちの仕事だと思っています。
新しいキッチンの開発と「うみまちLABO」の取り組み。2つに共通するのは、魅力的な住まいを届けたいという想い。住まいづくりのプロたちは、入居者以上に入居者の暮らしのことを考えているのかもしれません。何より自分たちが開発したキッチンや、企画した地域活動について楽しそうに説明する様子が印象的でした。
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