

食の安全確保に必要なこととは?
食は生きるうえで欠かせないだけでなく、生活に楽しみや豊かさをもたらすものです。ただし、安全が確保されていることが前提で、安全性に問題があれば場合によっては命にかかわることもあります。食の安全を確保するには、消費者や事業者だけでなく、国や自治体などの取り組みが重要になります。
profile
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立命館大学食マネジメント学部 教授
工藤 春代(くどう はるよ)
専門は農業経済学、食のリスク管理。食品安全に関する政策・制度に関して、日本とEU(欧州連合)・ドイツとの比較を行ってきた。リスク・コミュニケーションや、食生活の実態に関する共同研究も行っている。好きな食べ物は、アジ、ドイツパン。
消費者ができることは?
食の安全確保にはもちろん、消費者の注意や知識が必要なことがたくさんあります。例えば、細菌やウィルスによる食中毒を防ぐためには、食材を適切に処理したり調理したりすることが大事です。調理後の保管にも注意が必要です。消費期限内に食材を利用したり、消費することも必要ですし、アレルギー表示に気を付けなければならない場合もあるでしょう。いわゆる健康食品のなかには、利用方法によっては健康に害がもたらされる場合もあり、情報を見極める必要があります。
それでは、消費者が知識を付け、表示を見て適切に選択し、調理をすれば、安全が確保できるのでしょうか。
フードシステムの事業者の役割と国・自治体の役割
食品安全確保には、食品を供給する事業者の役割が大事です。私たちの手元に農畜水産物や食品が届くまでには、生産者、加工食品の製造業者、流通業者、外食や中食産業など、さまざまな段階を通ります。このような食品事業者は、安全確保に最も重要な責任を持ちます。
ただし食品事業者が安全な食品を提供するという責任を果たすうえで、国や自治体の役割が重要になります。事業者に必要な衛生管理の措置を取ってもらうよう規制や情報提供を行い、それらがきちんと実行されているかチェックや指導を行います。食に関係する人たちの専門性を高める教育や訓練も必要です。また事業者にアドバイスや支援を行う食品事業者団体の役割も重要です。これらは事業者の努力を支える社会的な制度ともいえます。消費者が必要な措置を取れるようにするための仕組みもこの制度に含まれます。
なお、食品安全の規制はリスク分析という国際的に認められた原則にそって行われています。食品には、健康に危害をもたらす可能性のあるものが含まれている場合があり、それらが健康に、どの程度の確率でどのような悪影響をもたらすかを、リスクといいます。リスク分析では、リスクを科学的に評価し、必要な措置の検討を行い実施します。その過程で関係者間の情報・意見交換が求められます。
食の安全は、すべての人に確保されるべきものなので、食品事業者の付加価値とするのではなく、社会基盤として確保されるべきものです。このような安全確保には、コストもかかります。私たちも生産にかかるコストを反映できる適正な食品の価格とは何かを考える必要もあるのではないでしょうか。
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