2019.08.20

Interview

誰もが日々昆虫を食べるようになる時代を目指して

いま昆虫食が、注目を集めています。栄養価が高いだけでなく、低コストで簡単に生産でき、環境への負荷も低い昆虫食は、人口の増加が加速する中で、牛や豚に替わる有望なタンパク源になり得ると期待されています。そうした中、コオロギのパウダーを含んだプロテインバーを2018年11月より販売開始したのが株式会社BugMoです。「BugMo CRICKET BAR(バグモ・クリケット・バー)」の名称で、抹茶味とチョコレート味のバーを毎月1000本のペースでオンラインやスポーツジムなどで販売しています。なぜコオロギなのか。どのように作られているのか。そこに込められた思いと可能性は――。同社を共同で立ち上げた松居佑典さんと西本楓さんに、お話を伺いました。

profile

  • 株式会社BugMo 代表取締役 CEO

    松居 佑典
    (まつい ゆうすけ)

    日本の大学で法律、海外の大学で農業教育を学んだ後、電機メーカーに就職。その後農業ベンチャーを経て、2018年にBugMoを共同創業。

  • 株式会社BugMo代表取締役 COO

    西本 楓
    (にしもと ふう)

    神戸大学発達科学部の4回生(現在は休学中)。学生NPOの海外インターン参加後に昆虫食が持つ可能性を知る。2018年にBugMoを共同創業。

コオロギで、世界の課題を解決したい

―― 日本では、コオロギを食べ物としてとらえている人は少ないと思います。なぜコオロギに着目したのでしょうか?

松居さん第一に、コオロギはとても栄養価が高い、という点が挙げられます。タンパク質、オメガ3、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれていて、良質なたんぱく質と大切な微量栄養素を一度に摂れるという点で、食材として魅力的なのです。加えて、生産する上でのメリットもあります。コオロギは、育てるのに必要な餌が少ないため、牛や豚を育てる場合のように、飼料を得るために熱帯雨林を伐採したりする必要もありません。また、場所や技術力を問わず簡単に育てられることから、途上国で、現地の人が自ら生産するのにも適しています。
そのように、栄養面での魅力に加えて、いま世界が抱える複数の課題を解決する可能性を持っています。それが、私たちがコオロギに着目した理由です。


―― ちょうど今朝も、ベトナム、東ティモール、タイへの出張から戻られたところだと聞きました。

西本さんはい、そうなんです。私たちのプロテインバーに使っているコオロギは、現在、タイ東北部の農家で、生育、そしてパウダーへの加工まで行っています。その地域では、伝統的にコオロギを食べる習慣があるんです。今回、よりおいしいコオロギのパウダーを作ってもらうために、焼き方や乾燥の方法の調整に現地まで行ってきました。また、東ティモールは、新しい製造拠点を作れないかを検討するための視察で、ベトナムは、すでに似たビジネスをやっているところがあると聞いたので、見学させてもらいに行きました。複数の国に、製造の場を広げていけたらいいなと思っています。

―― お二人それぞれ、どのような経緯でコオロギのバーを作ろうというところに至ったのでしょうか?

西本さんまだ数年前のことですが、大学1回生と2回生の時に、海外のインターン事業を運営する学生団体のメンバーとしてアフリカのウガンダに行く機会がありました。その時、現地の小学校で見た給食が、豆とコーンパウダーを固めたものくらいしかなくてかなり貧相だったことに驚かされ、何とかできないかと考えました。そして私自身が幼いころから昆虫が好きだったり、大学でも、専攻が生物系で、タンパク質が体内に入った時にどのような働きをするかといったことを研究する研究室にいたこともあって、昆虫を食用として利用する可能性について考えるようになりました。その後、イベントなどで昆虫食について話をしたりはしていましたが、製品を自ら作って起業するとは思ってもいませんでしたね。松居さんと知り合ったことで、実際にその方向で動き始めることになりました。


―― 松居さんは、大学で法律を勉強されていたものの、食べ物が原因で体調を崩したことをきっかけに、食や農業へと目を向けるようになったと聞きました。

松居さんそうなんです。元々は数十人の団体を率いたりと、活動的な方だったのですが、食べ物が原因で健康を害し、大学にも1年ほど行けなくなり、結局中退するという経験をしました。法律の世界に進むという夢も諦めました。その時期を経て、健康や食生活の大切さを痛感し、食や農業について積極的に学び考えるようになったんです。その後は、海外の大学で農業支援や環境科学について学び、帰国後、一度は電機メーカーに就職したのですが、やはり食や農業に関わる仕事をしたいという気持ちが強くなって、農業のベンチャー企業に転職。農業支援のようなことをやりたいと思ってカンボジアへ行ったときに、昆虫を食べることの可能性に気づかされました。
たまたまお世話になった家庭で、アリを食べさせてもらったんですよ。ホカホカご飯の上に、卵焼きを載せてもらって、その上にフライパンで軽く炒ったアリがパラパラとふりかけられていました。味は、少し酸味があるという程度なのですが、とてもおいしかったんです。「ああ、アリを食べてもいいんだ」という驚きと、家の周りにいる身近なものを食べるという豊かさにすごく感動しました。それで、帰国したらすぐ、食用にするための昆虫の養殖を始めました。コオロギやミルワーム、ハエの幼虫など、いろいろなものを育てては、ローストしたり、クッキーを作っていましたね。そんなときに、昆虫食の可能性をイベントなどで話していた西本と知り合い、一緒に起業して昆虫食を広めようということになったのです。

食べた人に、どんな風景を見てもらいたいか

―― お二人で起業することを決めてからは、どのような経緯だったのでしょうか?

西本さんまずはどの昆虫を食用として売り出すかを決めるために、ミルワームやハエ、アブの幼虫など、いろいろな昆虫を実際に育てて食べたりしました。その結果、コオロギで行こうと決めたのですが、納得のいくバーができるまでは大変でした。バーにしようとしてもボロボロと崩れてしまう。昆虫特有の臭みもある。それらの問題を解決しつつ、できるだけコオロギを豊富に含むバーにするためには、何をどのくらい混ぜればいいかなどで、かなり試作を重ねました。いろいろな人に食べてもらい試行錯誤を繰り返して、現在の製品が出来上がりました。試作を始めたのが2017年10月で、オンライン上で正式に販売を開始したのが2018年11月。丸1年、開発にかかりましたね。

松居さん製造するための工場を見つけるのも大変でした。大手メーカーの工場は、1000本程度だと少なすぎてまず作ってくれない。小さい工場は、焼き時間も焼き加減もすべて完全に決まったレシピ通りなら作ってくれるところもあったのですが、私たちの場合は、その辺りも相談しながら進めたいという思いがありました。砂糖、小麦粉は不使用でフルーツだけで固めるという製法へのこだわりも、工場探しをさらに難しくしていましたね。
100社、200社という数の工場にアプローチして、ようやくお願いできた工場から、販売の1ヶ月前になって「やっぱり難しいです」と打ち切られたこともありました。
最終的には、山形県の工場で作ってもらえることになり、今はそちらで生産しています。そうしてようやく、タイでコオロギを育ててパウダーにし、そのパウダーを日本に運んで、日本でバーに加工するという流れができました。


BugMo CRICKET BAR(バグモ・クリケット・バー)。一本22gのバーの中に、25匹分のコオロギパウダーと、フルーツやナッツが含まれる。人口添加物なし、グルテンフリー。チョコレートと抹茶の2種の味があり、各300円(写真はチョコレート味)。発売当初の製品は一袋当たり53gで500円だったが、食べやすさと求めやすさを追求して、サイズも価格も一新した。

―― 販売開始までには多くの困難があったのですね。それらを乗り越えて売り出してからすでに半年以上が経ちました。この期間を振り返っていかがですか?

西本さん自分たちで商品を作って売ったことで注目してもらえたことはまずよかったです。それなりの数も売れるようになりました。しかしまだ、とりあえず試しに買ってみるという人が多い印象です。コオロギが持つ特徴を魅力的と感じて継続的に買ってもらうというところにまでは至っていません。

―― どのような点が課題だと感じていますか?

西本さんやはり味ですね。食べた人の多くは、「意外とおいしい」という反応なんです。「意外と」ではなく、もっと積極的に食べたいと思ってもらえるようにしなければならない。様々な調整、工夫を試みていますが、これだ、という味にたどり着くのは簡単ではないなと感じています。

松居さん味をよくするための技術的な調整が大切なのはもちろんですが、プロの料理人の方たちの意見を伺うなかで気づかされた一番の課題は、私たち自身がどのような味を届けたいのか、そのイメージをまだはっきりと持てていないということです。自分たちはこのバーにどんなメッセージを込めたいのか。このバーを食べることでどのような風景を見てもらいたいのか。正直なところ、それはまだ明確ではない。そのイメージをはっきりと持った上で、技術的な面を詰めていくことが大事なのだということを最近強く感じています。

プロテインバーは、スタート地点でしかない

―― 今の課題は、おそらく実際に商品を世に出したからこそ見えてきたことなのだろうと思います。同じように、実際に製品を作ったことで新たに見えてきたコオロギの魅力はありますか?

西本さんコオロギは、餌を変えると味がかなり変わります。そこに大きな可能性を感じています。同じコオロギでも餌を変えることでいろいろな味を楽しめるというのは、他の動物と比べても面白い特徴だと思います。この特徴を生かすことで食の多様性という点にも寄与できるように感じています。

松居さんプロの料理人は、実際にすぐに違いがわかるんですよね。たとえば「これ、米ぬかを食べさせたやろ」って。

―― そんなに味が変わるんですね! では、今の仕事の面白さややりがいは、どんなところでしょうか。

松居さん繰り返しになりますが、私は食べ物が原因で健康を害し、人生が大きく変わりました。その経験から、身体の健康も、未来も、自分自身でコントロールしデザインすることが大事なのだという思いを持っています。それを実現するには、誰もが食べものを誰かに依存せず、自分自身で生産できるような世界を作る必要があると感じます。そうした世の中を作る可能性がある食材として、私は昆虫に注目しています。食べ物は、それだけ人間にとって影響が大きいものです。それが食に関わる仕事の魅力だと思います。

―― 西本さんは、現役の大学生でありながらの起業です。その原動力は何でしょうか?

西本さん大学に入ってウガンダをはじめ複数の途上国に行った経験が原点にあります。日本で昆虫食が広がることで、あの国々の人たちの生活が豊かになるかもしれないと想像しながら活動できるというのは、すごく大きな力になります。家族や友だちも、私たちの活動を応援してくれているのでありがたいです。

―― では最後に、これからBugMoが目指すところをお聞かせください。

松居さん昆虫食に大きな可能性を感じているので、なんとかもっと広めていきたいと思っています。そのためには、昆虫が単なるタンパク質や栄養素ではなく、毎日食べる日常的な食材として受け入れられるようになることを目指さないといけない。だからこそ、味にもとことんこだわります。
プロテインバーというのは、あくまでもスタート地点です。パンに混ぜるのに適した形や、もしかしたら肉のようなものを作る加工方法もあるかもしれない。そのようにいろいろな可能性を考えながら、日々研究を進めています。昆虫がより普通に食べられるようになる時代を目指して、これからも自分たちができることをどんどんやっていきたいですね。


お二人とも、昆虫食を広めたいという強い思いを持って活動をしていることが、その言葉や雰囲気からよく伝わってきました。原動力となっているのがそれぞれ自らの実体験ゆえに、壁にぶつかりながらもどんどん進んでいけるのではないでしょうか。近い将来、コオロギを食べることがぐっと私たちの日常の中に入り込んでいるかもしれません。

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