農業・農村の6次産業化を読み解く
今回のガストロノミアは、農家の所得向上の手段として注目されている6次産業化を読み解く一冊として、最近出版した『6次産業化研究入門―食と農に架ける橋―』の紹介をいたします。
『6次産業化研究入門―食と農に架ける橋―』編著・松原 豊彦(高菅出版、2021年)
農業・農村の6次産業化とは
この本のテーマは農業・農村の「6次産業化」です。6次産業化とは、第1次産業の農林水産業が原料供給だけにとどまるのではなく、第2次産業の食品製造業(加工)や、第3次産業の流通・サービス(外食)に積極的に進出して、付加価値を増やすことを意味しています。これによって農業の「総合産業化」を進め、地域に所得と雇用を増やすことが6次産業化の目的です。今村奈良臣・東大名誉教授が1990年代中ごろに、以上の関係を「1×2×3=6」として提唱しました。
6次産業化のポイントは次の3つです。第一に、農業が主体性をもちつつ、第2次産業(食品製造業)や第3次産業(流通、外食サービス)に進出することで、2次産業、3次産業に吸い取られていた付加価値(の一部)を農業、農村の側に取り戻すことです。第二に、6次産業化の目的は農業・農村における所得と雇用の拡大であり、6次産業化はそのための有力な手段として位置付けています。第三に、6次産業化を進めるうえでのカギは「地域固有の資源(地域資源)」を認識し活用することです。地域資源とは、地域の特産物はもとより農山漁村の景観、風土、生活文化、伝承などを含む幅広い概念であり、地域資源を掘り起こして活用を進めるには、地域外の視点を取り入れることが重要です。
6次産業化は、農水省の重点政策として位置づけられています。2010年に「6次産業化・地産地消推進法」(略称)が成立し、同法のもとで国や自治体による支援策の整備が進み、6次産業化の取り組みが広がってきました。最近では中国、韓国においても6次産業化が注目されるようになり、6次産業化の経験交流や比較研究が始まっています(2017年から19年まで東アジア6次産業化フォーラムが3回開催され、第2回フォーラムは立命館大学びわこ・くさつキャンパスで開催しました)。
6次産業化を進めるために
6次産業化についての研究にはいくつか乗り越えるべき課題があります。第一に、6次産業化について理論的な基礎を明確にして、取り組み事例の調査分析との間に橋をかける作業が必要です。第二に、6次産業化の研究には、農業経済学、経営学、食品加工学、観光学など関連する分野の研究者による協働作業が不可欠であり、学際的な視点からの研究に取り組んだことが本書の特徴です。
本書の構成は次のとおりです。第1部を6次産業化の基礎理論として、農業経済学と経営学の双方から6次産業化の基礎について検討することとした。そこでは、日本の農業・食料の現状と課題、競争戦略論、経営組織論、イノベーション、マーケティングと地域ブランドなど様々な角度から6次産業化について論じています。第2部は6次産業化の実践に関わる論考を収録し、食品加工、地域活性化戦略、観光とフードツーリズム、6次産業化の実践事例、およびビジネスプランの作成について述べています。
最後に本書の成り立ちについて一言。2010年の秋から農水省の事業として6次産業化人材育成講座が全国で実施されました。そのときに近畿地区の講座について企画の委嘱を受けたことが、編者が6次産業化と関わった最初でした。その後、近畿農業農村第6次産業化協議会の委員や、北海道アグリビジネス・リーダー養成塾、福井県里山里海料理アカデミーなどの講座の企画に参加してきました。同じ時期に、立命館グローバルイノベーション研究機構(R-GIRO)の研究拠点として「農水産業の6次産業化」が採択され(2012年から17年)、滋賀県草津市、守山市、甲賀市や三重県志摩市での6次産業化事業に関与するようになりました。本書の執筆者は一連の事業や調査研究に携わっています。本書の構想は現場での講座や調査を行い、6次産業化に取り組みたい参加者のみなさんと議論を重ねるなかから生まれてきたものです。本書に何らかの特色があるとすれば、以上の点にあるといえましょう。
なお、本書の刊行にあたっては、立命館大学2020年度学術図書出版プログラムによる助成を受けたことを申し添えます。
食マネジメント学部 教授 松原 豊彦
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