チョコレートを読み解く

2月14日はバレンタインデー。以前は女性から男性へチョコレートを贈るのが定番でしたが、今は友チョコやご褒美チョコなど、バレンタインデーが“チョコレートを楽しむ日”になりつつあります。そこで、チョコレートをもっと楽しむために、今年のバレンタインデーはチョコレートの歴史やおいしさの秘密に触れてみるのはいかがでしょうか。ガストロノミアがおすすめする、チョコレートを読み解く3冊を紹介します。

チョコレートにトウガラシ!?

『チョコレートの文化誌』著・八杉 佳穂(世界思想社、2004年)

チョコレートという言葉のもとになったのは、「チョコラテ」というスペイン語。その言葉ができたのは16世紀くらいで、それ以前はマヤの言葉で「カカウ」、アステカの言葉で「カカワトル」と呼ばれていました。つまり、カカオですね。『チョコレートの文化誌』では、マヤ語の研究者である八杉佳穂さんが、文献を駆使してチョコレートのもとである中米のカカオについて書いています。本によると、中米ではチョコレートは水に溶かしてときにはトウガラシを加える、高貴な人だけが飲める物だったそうです。その味は、ヨーロッパ人にはおいしくないと感じられ、人間のための飲み物ではないとまで言われたとか。また、金貨や銀貨ではなくカカオの豆がお金として使われたり、薬や貢物・交易品など、たくさんの役目を持ちました。

とろける甘さに溶け込んだ近代化のプロセス

『チョコレートの世界史』著・武田 尚子(中公新書、2010年)

カカオ豆は17世紀以降、「貿易」商品としてヨーロッパに運ぶしくみが作られていきました。近代のヨーロッパでは、搬入されたカカオ豆を、「生産・加工」するしくみが整い、ココアなどの加工商品が広がります。19世紀にはココアパウダーや固形チョコレートが発明・改良され、爆発的に普及しました。『チョコレートの世界史』の著者、武田尚子さん曰く「チョコレートのとろける甘さには、国ごとに異なる近代化の過程が溶け込んでいる」。チョコレートから近代化のプロセスが透けて見える興味深い一冊です。

おいしさの秘密は食感にあり

『チョコレートはなぜ美味しいのか』著・上野 聡(集英社新書、2015年)

食品の「食感」を微粒子の結晶構造から解析し、その理想形を追及する食品物理学から「チョコレートはなぜ美味しいのか」を解説する一冊。著者の上野聡さんは、チョコレートの「美味しさ」はカカオがもたらす独特の風味だけでなく、テクスチャーも大事と語ります。つまり、口に入れたときにトロリと溶けなかったら、カカオの風味や砂糖の甘みが広がることはないということ。では、チョコレートのあの食感をもたらすのは何かというと、原料であるカカオ脂(ココアバター)の性質にほかなりません。ココアバターの独特な性質や結晶構造に、チョコレートの美味しさの秘密が隠されているそうです。