ドイツの食文化とワイン
突然ですが、4月28日は何の日かご存知ですか?あまり知られていませんが「ドイツワインの日」なのです。ドイツワインといえば、甘めの白ワインを想像する方が多いかもしれませんね。今やヨーロッパ最大の経済大国となったドイツ。実はその食文化も時代とともに大きな変化を見せていました。
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京都橘大学 教授
南 直人(みなみ なおと)
専門は西洋史学、食の歴史研究。「食」からドイツ近現代史を考察するとともに、ヨーロッパの食文化を比較文化的視点から観察することをめざしている。好きな食べ物は、ドイツで食べるドネルケバブ。
ドイツの地理的環境と食文化
ヨーロッパはユーラシア大陸の西の端にあり、日本を含む東アジアとは、同じ温帯に属しながらも気候風土はまったく異なります。また、アルプス山脈で大きく南北に分かれ、それぞれ独自の気候風土、食文化を持っているのです。ドイツが位置するのは、北部ヨーロッパのほぼ中央。その食文化は、いわば北部ヨーロッパの代表的な性格を示しているといえます。
まず、食生活の中心となるのはライ麦や小麦などの穀物。それらから作られるパンや粉食品が最も基礎的な食品です。近代になってからはジャガイモもそこに加わりました。さらに、基礎的な食品としては、肉や肉加工品(ソーセージ、ハム類)と乳製品(ミルク、バター、チーズ類)、副次的な食品としては、野菜・果物類、淡水と海水の魚介類などもドイツの食卓を飾ることになります。
しかし、ドイツ国内でも南北で食文化に差があり、さらに歴史も関係して、地域によって独特の料理や食習慣が存在します。近年では移民の人々が持ち込んだ食文化も混在しており、ドイツの食文化といっても、実際は多様な姿を持っているのです。
ドイツのワインとビール
こうしたドイツの食文化において重要な位置を占めるのがアルコール飲料で、一般的に「ドイツ人=大酒飲み」というステレオタイプが存在するほどです。ドイツではどうしても「ビールの国」というイメージが強く、ワインについてはあまり語られません。
確かに、ドイツ人のビール消費量は世界有数のレベルですし、各地域にさまざまなタイプの地ビールがあり、オクトーバーフェストなど華やかなビール文化が展開しています。しかし、ドイツワインも決して捨てたものではありません。基本的には西南ドイツ、ライン川沿いのラインラント・ファルツ州から、その南のバーデン・ヴュルテンベルク州あたりが主産地となりますが、その他の地域にもワイン産地は点在しており、実はドイツはワインの国でもあるのです。
ドイツワイン、今昔
ところで、ドイツワインのイメージとはどのようなものでしょうか。かつてはドイツのワインといえば、「マドンナ」に代表される甘ったるい白ワインというイメージが一般的でした。これは、地理的制約ゆえに白ワインが中心にならざるを得ないというドイツの事情もありますが、敗戦・占領から急速な経済成長にいたるかつての西ドイツの戦後の歴史も、何らかの関係があるのかもしれません。
しかし、ヨーロッパ最大の経済大国になった現在のドイツでは、ワイン事情はかつてとは大きく変わってきました。ひとことでいうと、辛口のワインが多く飲まれるようになったのです。例えば、ドイツ国内のワインショップで商品棚を見て回ると、「トロッケン(trocken)」すなわち辛口のワインが大半を占めていることに気づかされます。もうひとつは、赤ワインの生産比率が近年拡大し、ほぼ40%近くにまで達しているということです。ひと昔前は、ドイツの赤ワインといえば軽く、色も薄いものがほとんどだったのですが、かなり色の濃い、比較的重い赤ワインも少しずつ増えている気がします。
このように、ドイツワインをめぐる状況は時代によって大きな変化を示しています。海外の食文化に対しては、ステレオタイプのイメージにとらわれずに、自分の目で確かめることも大切であるといえるでしょう。
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