「中食」とともに進化するコンビニ業界の現在
中食市場を牽引するコンビニエンスストア。飽和状態とされる市場のなかで、なぜコンビニ業界は成長を続けられるのでしょうか? 進化するサービス内容から成功の秘訣を探ってみましょう。
profile
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県立広島大学大学院 教授
田中 浩子(たなか ひろこ)
専門は食品流通論。経営と栄養の2つの方向から食を見つめ研究している。好きな食べ物は鰤とワイン。
進む食の外部化。調理は「時短」の傾向に
私たちの食生活は、大きく3つの領域に分けられます。材料を買って自分で作る「内食(うちしょく)」、レストランなどを利用する「外食」、そして調理済みの食品を家庭や学校・職場で食べる「中食(なかしょく)」。身近な中食と言えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどで売っているおにぎりや弁当、持ち帰り寿司や宅配ピザでしょうか。
外食の市場規模は1997年の29兆円をピークに減少が続いていましたが、2012年から再び増加に転じており、中食はずっと増加し続けています。外食や中食を利用することを「食の外部化」と言います。1世帯あたりの人数が減り、材料を買ってきて作るよりも、出来上がったものを買ったほうが安く手に入れられることや、調理に費やす時間をほかのことに使いたいという願望を満たしてくれることも、「食の外部化」が進む要因と考えられます。
顧客接点を増やし続けるコンビニの販売戦略
中食の一番の購入先はコンビニエンスストアです。コンビニエンスストアは、2016年末で全国に5万5000軒。コンビニエンスストアがレシピ開発を行い中食の概念を拡げた代表的なものに、おにぎりと麺類があります。おにぎりは「家で作るもの」でしたが、現在となっては「買うもの」になり、昔はしっとりした海苔が普通でしたが、今ではパリパリとした海苔が標準になっています。また麺類は茹でた後、伸びたり、麺同士がくっついたりするため、以前は弁当容器に入れて販売することなど考えられなかった商品です。
中食に対するニーズを発見したことがコンビニエンスストアの成功の要因なのか、コンビニエンスストアの急速な拡大により中食市場が拡大したのかは、卵が先か鶏が先かのような話ですが、中食市場を牽引しているのはコンビニエンスストアであることは明らかです。
世界金融危機以降、日本の小売業は低迷し、コンビニエンスストアの売上高も店舗数も伸び悩み、市場は飽和したかのように見えましたが、2011年以降、再び売上高・店舗数ともに増加しています。近年ではフライドチキン、コーヒー、ドーナツなど、外食産業では市場が飽和したのではないかと考えられていた商品が、コンビニエンスストアで販売されると爆発的に売上を伸ばしました。
また、ドミナント出店と呼ばれる、限られたエリアにすきまなく店を出す方法をとっていたので、もう出店がないのではないかと考えられていた時期もありましたが、駅の構内への出店や「自動販売機型コンビニ」「置き薬型コンビニ」の開発により、顧客接点を増やし続けています。
「便利」を追求。時代に合わせてサービスもアップデート
コンビニエンスストアの来店客層も変化しています。あるコンビニチェーンでは1990年代前半は、来店客の半数以上が30歳未満でしたが、2015年には40歳以上が半数を超えるようになりました。顧客の高齢化にあわせ、「持ち帰り」に加えて店舗をベースとした「宅配」事業などサービス内容も変化。2000年に開始した配食事業に加え、約2700種類の店頭商品の中から電話注文もしくは店頭で購入された商品を配達するサービスや、店舗と同じ5つの温度帯の商品を積むことができる移動販売車が、主に老人ホームや事業所、住宅地などに出向くサービスも行っています。また、百貨店でしか手に入れられなかったものが、自宅のパソコンやコンビニエンスストアの店頭にある端末を利用して注文できるようになりました。
通信販売やネットスーパーなど、食の提供方法が多様化する中、コンビニエンスストアは、その名の通り「便利な店」を追求し、進化し続けることでしょう。
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