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料理道具から知る食とテクノロジーの歴史
フライパン・やかん・お鍋……。キッチンに並ぶ料理道具一つひとつの歴史に目を向けると、思いもよらない食とテクノロジーの関わりが見えてきます。
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立命館大学 教授
清水 裕子(しみず ゆうこ)
専門は英語教育学、特に言語テストに関連する領域。ある英語テストへの興味・疑問からスタートし、自分が受けてみたくなるような英語のテストがないものかと思いつつ、現在に至る。好きな食べ物は、具だくさんのサンドイッチ(おいしいコーヒー付き)。
食の歴史はテクノロジーの歴史?
料理好きの友人から奇妙な器具の写真が送られてきました。なにやら真空調理を家庭でも可能にしてくれるのだとか。最近は、液状の食材を泡にする調理器具や、お米の銘柄によって焚き加減を調整する炊飯器など、ハイテクな調理器具が登場し、それらがプロの道具にとどまらず、家庭の中でも使われてきているようです。
一人暮らしを始めた頃を思い出してみると、フライパン・やかん・お鍋の「豪華3点セット」が、ぴかぴかの新入生の顔をして小さな台所に置かれていました。友人が買ったというテクノロジーを駆使した道具とは縁もゆかりもなさそうです。しかし、この考えはビー・ウィルソンの著書『キッチンの歴史: 料理道具が変えた人類の食文化』によって覆されます。
歴史家でもあり、フードライターとしても著名な彼女は、「食の歴史はテクノロジーの歴史」であると言っています。火を使うことでヒトの進化は加速しましたが、食においては、火だけを使った調理(炙り焼きが人類初の調理法とされている)から、鍋を使うことによって飛躍的な進歩をとげたようです。言われてみれば当然ですが、鍋によって「ゆでる」ことが可能になったわけで、焦げつかないフライパンのように、鍋の素材の追求がテクノロジーと関わっているように、「ゆでる」行為もテクノロジーとして捉えられるのです。
テーブルナイフの先が丸い理由
ウィルソンは、歴史家としての視点に立って、身近な料理道具がどのように生まれ、どのように形を変えながら、我々の暮らしや文化に影響を与えてきたかを解いています。かたい話ばかりでなく、人に自慢げに話したくなるようなエピソードも盛り込まれています。
例えば、食事の時に使うテーブルナイフ。先がとがっていないのを当たり前のように感じていますが、さかのぼれば、17世紀、ルイ13世の時代のフランスに宰相リシュリュー枢機卿が、晩餐の際に、両刃ナイフのとがった刃先で食後の歯の掃除をしている客の姿に驚き、屋敷内のナイフをすべて丸くしたことから始まったのだそうです。
料理道具から見て取るテクノロジーの発展
キッチン、台所、お勝手、だいどこ、厨房……と調理を行う場所の呼び方は様々です。しかし、そこにある道具は、「豪華3点セット」のように共通するものも多くあります。それらを改めて眺め、自分との関わりを振り返ってみるのもいいですね。そして、ウィルソンの本と共に遠い古代に思いを馳せながら、「テクノロジー」の発展と展開に食指を動かしてみてはいかがでしょうか。
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